ご挨拶

理事長 村松太郎
慶應義塾大学医学部 精神・神経科 司法精神医学研究室 室長
JDC六番町メンタルクリニック 院長
2024年12月の理事会で本学会の理事長を拝命いたしました村松太郎です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
本学会は、「精神医療に関する法学・医学及びその実務の総合的研究ならびに研究者相互の協力を推進し、もって精神医療の充実と改善に寄与すること」を目的として、1986年3月に設立されました。それから40年余、本学会は、この理念を維持しつつ拡大し、法と医の対話の場として発展を続け、現在に至っております。
世に専門家集団としての学会は無数と言えるほど存在いたしますが、「法」と「医」という、本来は密接な関係にありながら、現状は異界といえるほど隔絶した関係にある二つの領域の専門家が本音で論じ合うことができる場である本学会は、他の学会にはない顕著な特長と将来性を有していると確信しております。会員の皆様におかれましては、学会のさらなる発展に向けて、引き続きご協力ならびにご指導・ご鞭撻をいただきますようお願い申し上げます。またHPにアクセスしていただきました非会員の皆様には、ぜひ本学会に入会いただき(入会お手続きはこちら)、新しい風を、それは涼風であっても暴風であっても大歓迎ですので、新しい風を吹き込んでいただくことを切望しております。
「法」と「精神医療」の、学術面・実務面の益々の発展と、それに伴う当事者の方々の恩恵に最大限に資することを目指し、皆々様のお力をお借りしつつ、これから3年間の任期を通し努力を続けてまいりたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。 (2025.3. 記)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
理事長通信
2026.1.29.
以下は、精神科医が読者のある印刷物に掲載した本学会の紹介文です(ごく一部改変)。現代において精神医療にかかわるときに、あるいはまた、精神医学を追究するときに、本学会の持つ非常に大きな意義を述べた文章です。
法と精神医療学会(JALP: Japanese Association of Law and Psychiatry)は1986年に「精神医療に関する法学・医学及びその実務の総合的研究ならびに研究者相互の協力を推進し、もって精神医療の充実と改善に寄与すること」を目的として設立されました。創立記念講演では、法の分野から東京大学総長であった平野龍一先生、精神医学の分野から慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室主任教授であった保崎秀夫先生が登壇されています。この組み合わせは、法と精神医学はいずれも独自の判断原理を持ち、相互に還元され得ない領域であるという本学会の立場を、最初から明確に示すものでした。
世に専門家集団としての学会は無数と言えるほど存在しますが、「法」と「医」という、本来は密接な関係にありながら、現状は異界といえるほど隔絶した関係にある二つの領域の専門家が直接に論じ合うことができる場として、JALPは他の学会にはない顕著な特長を有しています。精神医療と法との関係は言うまでもなく非常に密接です。非自発入院、行動制限、虐待、自傷他害リスクへの対応、さらには警察・検察・弁護士・裁判所との関与など、日常臨床の延長線上に制度が存在しています。臨床では、個々の状況に即して「この場面で何が最も妥当か」を判断し続ける一方、制度は一貫性や整合性を要請する。ここで、臨床の論理と制度の論理は、しばしば鋭く対立する関係に立ちます。この対立は偶発的なものではなく、両者の判断構造の違いから必然的に生じるものです。
精神医学は、ときに法の場で「説明」を求められる立場に置かれます。しかし精神医学は、制度の空白を埋める補助的技術ではありません。それ自体が、判断の前提を問い直す学です。人の判断や行為を理解するための独自の理論と方法を持つ専門領域です。その前提を共有しないままでは、法と精神医学の関係は建設的なものにはなり得ません。JALPの役割は、精神医学が自らの言語で語り、法の言語と相互に検証し合うための場を維持することにあると考えています。
そして法と精神医学はいずれも、自然科学だけでは完結しない学問です。脳科学がいかに進展しても、精神科医療が最終的に扱うのは、「本人がどのように世界を体験していたのか」「自らの状態や行為をどう理解していたのか」「病識・洞察がどのように形成され、どのように変化したのか」といった主観の水準です。法においても同様に、「本人は何を理解し、何を理解できなかったのか」「その理解可能性を社会はどこまで前提とし、どこで限界を引くのか」という問いが不可避です。責任や帰責の判断が規範的判断である以上、主観を排した議論は成立しません。この点において、法と精神医学は本質的に近い課題を共有していると考えています。両者の対話が困難であるとすれば、それは困難であるべき問いを扱っているからにほかなりません。
もう一つ、精神科医が法に関わることで明確になる重要な論点があります。それは、判断の根拠としての evidence の扱いです。臨床医学では、多数症例の統計から導かれたエビデンスが重視され、診療ガイドラインや治療戦略の基盤となっています。一方、法の場面で重視されるのは、一般化された知見ではなく、個別事例において何が起きたのかを裏づける証拠としての evidence です。この差異は、いわゆる “Group to Individual problem (G2i problem)” として知られています。集団データから得られた知見を、個別の一例にどこまで適用できるのかという問題です。もっとも、これは法に特有の難しさではありません。医療においても、エビデンスの重要性と、それが目の前の患者に妥当するかどうかは、常に別の問題として存在しています。私たちは日常臨床の中でこの問題を暗黙のうちに処理していますが、法の場ではそれが明示的に問われます。精神医学が普段、どれほど暗黙の仮定に依拠して判断しているかを、法は容赦なく可視化します。
このように、精神科医が法に関わる意義は、制度対応にとどまりません。主観という、自然科学だけでは扱いきれない領域をどう評価するかという問題、そして 判断の根拠となる evidence を、個別事例の文脈でどう位置づけるかという問題。この二点こそが、精神科医が法に関わることの中核的意義であると私は考えています。
法の世界に関わることは、臨床判断や精神医学的説明を、より慎重かつ明確に構成する必要性を強く意識する契機になります。JALPは、精神鑑定業務に携わる一部の専門家だけの学会ではありません。むしろ、日常臨床の中で「自分は何を根拠に判断しているのか」「制度に対して何を説明でき、何を説明すべきでないのか」といった問いを持つ精神科医にとって、有効な思考の場です。精神科にかかわる多くの先生方に、精神医学を別の角度から見直す機会として、JALPに関心を持っていただければ幸いです。法と精神医学の関係は、今後、精神医療が社会の中で存立する条件そのものとして問われるようになるでしょう。JALPは、その言葉と視点を獲得するための、最も緊張感のある場の一つです。
2025.12.6.
法と精神医療学会第40回大会は、本日、大変盛況にうちに終了いたしました。私は終了後の懇親会を終え、さらに先斗町での二次会を終え、ホテルに戻ったところです。大会実行委員長の柑本先生をはじめとする実行委員の先生方、大会校責任者の安田先生、そして大会で大変活発な議論をしていただいたご出席の先生方みなさまに深く感謝申し上げます。本大会で実現された、実務と密接に連携した知の集積を未来にも展開し、ひいては社会貢献につながる学会活動を、これらも会員の先生方のお知恵とご協力を賜りつつ継続してまいりたいと思います。本日はまとこにありがとうございました。
2025.10.27.
本学会として初めてのオンラインシンポジアムである、「袴田事件 – 法と精神医療の視点から」は、昨日10月26日、100名を超えるご参加をいただき、盛会のうちに終了することができました。シンポジストとしてご講演いただいた村山浩昭先生・中島直先生、司会の労をお取りいただいた田口寿子先生、準備期間から当日の運営まで細心の注意をお払いいただいた今井淳司事務局長をはじめとする学会事務局の先生方、閉会のご挨拶をいただいた柑本美和先生、そして貴重な日曜日の午後にご聴講いただいた多くの先生方に深く感謝申し上げます。本会は法と精神医療学会 第40回大会の特別企画サテライトとして開催したもので、第40回大会は2025年12月6日に京都大学吉田キャンパスで開催されます。京都で先生方にお会いできますことを楽しみにしております。
2025.9.10.
慶應義塾大学医学部 精神・神経科主催講演会の精神展開剤についての講演会を当学会で後援させていただくことになりました。精神展開剤(サイケデリクス psychedelics)は、従来の薬では効果が不十分であった治療抵抗性のうつ病やPTSDに対する画期的な治療薬として近年世界で注目が高まっており、我が国では慶大の精神・神経科が主導して臨床研究が進められています。本剤をテーマとする前回(シリーズ第1回「精神展開剤の現在と未来: 多角的視点から探る医療と社会の新たなる可能性」2025.5.24.)講演会の抄録に、その歴史から現在地、そして未来への展望までがわかりやすくまとめられていますので是非お読みください。また、NHK BSでも9月15日に「サイケデリック・ルネサンス 精神医療の最前線」と題された番組で本剤をめぐるトピックスが放映される予定です。
精神展開剤は、これからの精神医療を大きく変革し、難治性精神障害の方々に多大な恩恵をもたらすことが期待できる一方、専門家の管理のもとで適正に使われるという条件を満たすことが必須であり、そのための法整備が一つの大きな課題になることは確実で、本学会後援に至った経緯にはそうした背景があります。
2025.8.17.
今年の12月6日に京都で開催される法と精神医療学会 第40回大会のプログラムが決定いたしました。シンポジアムのテーマは「ストーカー対策の最前線」です。また、研究報告として、愛知大学法学部の小林真紀先生に「フランスにおける精神障害者の権利に関する一考察 --- 隔離・拘束をめぐる問題」、横浜市こころの健康相談センターの永田貴子先生に「横浜市における精神保健福祉法第34条による移送の取り組み」をご報告いただきます。そして広島大学名誉教授の横藤田誠先生からご講演「憲法から見た法と精神科医療 --- アメリカ法の光と影」をいただきます。プログラム詳細はトップページをご覧ください。大会実行委員長の東海大学法学部・柑本美和先生、会場校・京都大学法学部の安田拓人先生をはじめとする関係者の先生方のご尽力に深謝いたします。
2025.7.16.
法と精神医療学会 第40回大会特別企画オンラインシンポジアム「袴田事件 – 法と精神医療の視点から」の参加申し込み受付を本日10:00AMに開始いたしました。申し込み方法等詳細はトップページに置いたPDFをご覧ください。当日は村山浩昭先生・中島直先生にシンポジストとしてそれぞれ1時間のご講演をいただきます。質疑応答の時間も十分に確保いたします。歴史に残るシンポジアムとなることは間違いないと確信しております。是非ご参加ください。会員の先生方は参加費無料です。
2025.6.5.
2025年10月26日午後に、法と精神医療学会オンラインシンボジアムを開催することが決定いたしました。袴田事件をめぐって、再審制度について、また、拘禁に関連した精神状態についてなど、法と医の両面から論ずる予定で、ご登壇者はこのテーマに関しての圧倒的な第一人者であられる村山浩昭先生と中島直先生です。
村山浩昭先生は、2014年、静岡地裁で裁判長として、袴田事件の再審開始と袴田さんの釈放決定を出され、現在は再審法改正に向けて精力的に活動されている弁護士でいらっしゃいます。(弁護士法人法律事務所ヒロナカご所属)
中島直先生は、袴田さんの鑑定および釈放後治療に携わった最初の精神科医でいらっしゃいます。(多摩あおば病院ご所属)
お二人にご登壇いただくことで、当日は最高のシンポジアムを体験できることは間違いないと確信しております。詳細は後日にトップページでご報告いたしますが、日程は2025年10月26日午後と決定しておりますので、みなさまご予定いただければ幸いです。
村山先生と中島先生には、大変お忙しい中、本学会シンポジアムでのご講演をご快諾いただきましたことに深く感謝申し上げます。
2025.5.19.
松沢病院を訪問し、布村院長、齋藤名誉院長にご挨拶させていただくとともに、本学会の今井事務局長をはじめ、事務局を支えてくださる松沢病院の先生方と、これからの学会活動について、大変有意義な熱い議論をさせていただきました。深く感謝いたします。
2025.4.4.
昨日(2025.4.3.)、第1回あり方委員会(Kick off meeting)をオンラインで開催し、本学会の発展に向けて、委員の先生方からたくさんの貴重なご提言をいただきました。昨日のご議論を受けて、実現に向け鋭意努力を続けてまいりたいと思います。経過は適宜会員の先生方にお知らせいたしますので、その際にはご意見等いただければ幸いです。
2025.3.30.
学会誌のページ、長らく未完成のままになっていましたが、このほど、山本輝之前理事長にご支援いただき、1987年の創刊号から2024年の最新号(第38号)までの全巻の目次を掲載することができました。本学会の37年のあゆみが俯瞰できますので是非ご覧ください。
2025.3.12.
この度、理事会からご承認いただき、本学会内に「あり方委員会(仮称)」を設立いたしました。同委員会の目的は、本学会の今後のあり方を議論し、よりよいあり方への実現の道筋を作ることです。学会としての力を最大限に発揮できるシステム構築に向けて、委員会活動を開始したいと思います。学会員の先生方のご協力をどうぞよろしくお願いいたします。
精神展開剤の現在と未来:
多角的視点から探る医療と社会の新たなる可能性